アーユルヴェーダ薬膳ライフ35/ タニアの憂鬱
ニューデリーの英語学校に通っていた頃、ゲストハウスに滞在していました。女主人のマダムタニアは料理が得意で、毎日お弁当を作って持たせてくれました。彼女の得意アイテムは、カリフラワーとじゃが芋のスパイス料理、アルゴビでした。
ゲストハウスは都心からかなり離れた住宅地区にありました。そのエリアは東西南北4つのゲートで囲まれており、夕方6時にはゲート3つは閉まり、南ゲートだけが開いています。そこには警備員がおり、住人以外は入れないシステムになっていました。私は毎朝、7時に開くゲートを待ち、外でリキシャをひろって学校に通っていました。
住宅地区内は歴史を感じさせる瀟洒な屋敷が立ち並んでいました。公園やマーケット、病院、洋品店など外に出なくても生活に必要なものは全てそろっていました。
昔、領主とその家臣たちが民衆と居住地を分けて暮らしており、その名残なのだと思いました。インドには珍しくない居住システムです。
ゲストハウスは3階建ての屋敷を改装し、長期滞在者を宿泊させていました。
客室は2階で3ルームありました。観光地でもないので宿泊者はたいてい地方から来たインド人。仕事で1週間から10日くらい滞在していました。
1階にはタニア夫婦が住んでおり、他にメイドと男性従業員が2人いましたが、ホテルとは違い家族的な雰囲気でした。
(写真)タニアのゲストハウス玄関ホール
(写真)タニアのゲストハウス二階
タニアは50代半ばで、広い額とパッチリした目が印象的な太めの女性でした。子供たちの独立後、夫婦二人では広すぎる屋敷で、数年前からゲストハウスを始めたのでした。よく笑う気持ちの良い人で、一緒にカフェやマーケットに連れて行ってくれました。
「I love pomegranate. It is so beautiful. …(私はザクロが大好き。赤い実は美しくて、まるで宝石を食べているよう)」手に取ったザクロを愛おしそうにさすりながらタニアは言いました。宝石を食べる。すごい!なんてゴージャスな女性だろうと思いました。
屋敷の庭にはブーゲンビリアやバラの花が満開で、タニア夫婦は庭の白いテーブルでよく紅茶を飲んでいました。夫はスラリとした紳士。花の園で二人が並んでいる姿は、絵に描いたような裕福で平和な風景でした。二人の笑い声がよく聞こえていました。
インドを紹介するガイドブックには『貧困と喧噪』『喜捨とぼったくり』などとよく載っていますが、ここでは微塵も感じられない。ゲートの中と外とのギャップの大きさに、同じインドとは思えませんでした。
タニアは料理が好きで、掃除や洗濯はメイドにさせていましたが、料理だけは自分で作っていました。宿泊者の食事は男性従業員が部屋に運んでいましたが、私の食事はタニアが運んでくれました。外国人の私が珍しかったのか、管理栄養士という職業に関心を抱いたのかは解りませんが、とても好意的に接してくれました。
食事時間にノックの音でドアを開けると、タニアがピンクのエプロンをつけ、ニコニコしながら立っています。
トレイに載せた自慢の手料理を、使った材料や作り方、名前などをひとしきり楽しそうにしゃべって部屋を出ていくのが常でした。夫婦がピュアーなベジタリアンだという事は3日で解りました。毎日朝も、昼も、夜も、野菜と果物しか出てきません。動物性のものはチャイの牛乳だけだったのです。(#^.^#)
1か月もすると、さすがに野菜生活にうんざりした私は、マーケットで見つけたばら売り卵を5個買いました。その日、夕食を運んで来たタニアに
「May I ask a favor? …(お願いがあるのですが…。明日から朝食に、これをゆで卵にしてもらえませんか)と見せました。
彼女は顔色を変えました。大きな目がこぼれ落ちそうなほど見開いて、後ずさりをしたのです。
「こ、これは卵です。私の人生でこれに触ったことは1度もない」
「へぇ?」ベジタリアンって、そこまで厳格なの?
「後で、誰かに取りに来させます」
そう言って部屋を出ていきました。何か気まずい雰囲気。
翌朝から、ゆで卵1個が朝食のカレーについて来ました。運んでくるのはタニアではなく男性従業員。
「タニアはどうしたの?」
「ゆで卵の匂いで気分が悪いそうです」
「えー!!」
知らなかった。ベジタリアンの人たちにとって動物性の食べ物は触ることも、匂いさえもダメだったなんて。私の気軽な頼みは、裕福で平和なタニアの日常に、重い憂鬱をもたらしたようでした。彼女が私の頼みで、生まれて初めて触る卵をキッチンで茹でている。そのけなげな姿に胸が痛みました。殻をむいても卵が喉を通らない。。。という事は全くなく、久しぶりに食べるゆで卵は、この上なく美味しかったでーす。\(^◇^)/
しかし、さすがにこれ以上は頼めず、5つの卵が無くなった日、私はタニアの大好物のザクロをたくさん買って、彼女にお詫びとお礼をしました。こうして、タニアの食事運びは再開したのでした。(#^.^#) ハハハ〜
p.s
後日、キッチンで卵を茹でていたのはタニアではなく、メイドさんだったことを知りました。さすが愛すべきマダムタニア。私はベッドから転げ落ちるほど笑いました。
今日はアルゴビをインド薬膳仕様で紹介します。(^◇^)
材料(2人分)
じゃが芋1個 (100g位)
カリフラワー1/4個 (100g位)
玉ねぎ1/2個 (100g位)
土生姜1片
ニンニク1片
トマト1個 (100g位)
スナップエンドウ2本
サラダ油 大さじ1
クミンシード 小さじ1
A
コリアンダーパウダー 小1
クミパウダーン 小1/2
ターメリックパウダー 小1/4
チリパウダー 小1/6
ガラムマサラ 小1/4
塩 小1/4
だし汁400ml
作り方
1. じゃが芋は皮をむき、縦半分に切り横8当分する。カリフラワーは小株に分ける。スナップエンドウは小口切り。トマトざく切り。玉葱、ニンニク、土生姜はみじん切りにする。
2. じゃが芋とカリフラワーはそれぞれだし汁に塩少々(分量外)を加えて茹でておく。
3. フライパンに油、クミンシードを入れる。シードからじわじわと泡が出てきたら玉ねぎを入れてきつね色に炒める。
4. ニンニク、土生姜を加え、トマトを入れて水気をとばすように炒める。
5. Aのパウダースパイス塩を入れる。じゃが芋やカリフラワーを茹でただし汁の残り150mlとスナップエンドウを入れ沸騰させる。
6. じゃが芋とカリフラワーを入れて煮込む。
7. 具材を混ぜた時、フライパンの底が見える位に水分が減ったら火を止め、仕上げにガラムマサラを振掛ける。
8.器に盛りつけ、あればコリアンダーリーフなどの香菜を添える。
0コメント