アーユルヴェーダ薬膳ライフ36/ 桜の時

桜が満開の季節となりました。朝の散歩道に桜のトンネルがあります。はらはらと舞落ちる花に祝福され、1日を始めるのはとても幸せな気分です。今年もコロナで制限の多い花見シーズンとなりましたが、何はあっても毎年桜が見られるのは嬉しいものです。

国花はその国の人々が最も愛する花。それぞれにお国柄を感じさせます。インドの蓮。中国の牡丹。韓国の木槿(むくげ)。アフガニスタンのチューリップ。珍しいところでは、カンボジアの稲。ウクライナの国花は向日葵(ひまわり)だそうです。戦場と化した国に再び、向日葵が咲き誇るのはいつか。。。胸が痛みます。

「It was no flower. Anywhere. (花がなかった。どこにも咲いてなかった)」

マンションの入り口で偶然出会ったペリアサミーさん一家。ガッカリした様子で帰って来た。妻と幼い二人の子供たちもお疲れ気味。

インドに帰る日が近づく彼らにとって、今日は最後の日曜日。以前訪れた万博記念公園の蓮池がすばらしかった。蓮だけでなく様々な花がいたる所に咲いていた。それで日本滞在の最後の思い出にしたかったらしい。

「残念でしたね。以前はいつ頃行かれたんですか?」

「うーむ、6月だったかな?」

「そうですか。今は花がない時期なんですよ」

「花がない?」 

「はい」

「花のない時期なんてあるのか」

「えーっ?」

ペリアサミーさん一家が住む南インドは四季の変化がなく、通年平均気温が30度。色鮮やかな南国の花がいつでも見られるはずだ。なるほど、2月に蓮の花見に行くのも無理はない。

36歳の彼は科学者。インドの公務員で共同研究のため来日。そして、たまたま同じマンションの上の階に引っ越してきた。私が彼らと知り合ったのは1年前だった。

「四季の変化がはっきりしているのが、日本の気候の特徴なんです。だから寒い冬に咲く花はとても少ないです」

「うーむ。去年の桜を思い出した。開花時は美しく素晴らしかったが、すぐ散り始めた。散ってはまた咲くのかと思っていたら、次の週にはすっかり様子が変わり、驚いたよ。これが四季の変化というものかね」

「桜は日本人のスピリッツの象徴。散り際の良さを美徳とする精神性を表しているんですよ」

「諦めが早いのが日本人の美徳なのか?」

「えーっと、ちょっとニュアンスが違うけど…」

ピッタリの言葉が思い当たらない。

Give up easily.(簡単に諦める)foll down immediately(瞬く間に散る)だめだめ、どれもネガティブ過ぎて使えない。日本語でないと表現できない感覚なのか。

「日本は戦争をするな。美徳かも知れんが、潔く降参していては国が亡びる」

と、早くも返事がきてしまった。私の未熟な英語力では上手く説明が出来ない。単語が頭の中でめぐるが適切な言葉が出ない。もどかしかった。

蓮が泥沼の底から這い上がり、大輪の開花後は、大粒の種をぼこぼこ落として子孫を絶やさない。そんな逞しい現実的な花を愛する国民性と、パッと咲いて一斉に散っていく幻想的な花を愛でる国民性とは根本的に価値観が違う。同じ考えを求めるのは無理だろう。お国柄の違いという事で説明をあきらめた。

ローカルな私鉄の駅前から一筋入ると平屋の民家が集まっている。その小さな神様たちは民家の軒下、電話ボックスくらいの格子の中に祀られていた。中には高さ30センチほどの石仏が何体も並んでいる。

明日でペリアサミーさんたちともお別れ。カルチャーショックの数々を振り返りながら駅に着いた。仕事の帰り、いつもは素通りする脇道にふと目を止めた。神様の前に立っているのは、ペリアサミーさんだ!彼はポケットから出した布袋を逆さまにし、賽銭箱にざらざらと小銭を落とした。そして手を合わせ、長い祈りを始めた。合掌の姿勢が美しい。清々しい姿だった。祈り終わるのを待ち、声をかけた。

「hi! Sammy. (こんにちは。サミー)」

「Oh, Minami. (おおっ、ミナミ)」

「とても長いお祈りだったわね」

「この道を通る度に祈っていたが、今日は特別だ」

「明日はインドに帰るのですものね」

「うむ、日本の硬貨はもう使う機会がない。空港の外貨寄付箱に入れるより、滞在中無事に過ごさせてくれたこの土地の神に感謝したい。だから持っている硬貨を全部、賽銭した。僕にとって日本は初めての海外生活だったんだ。ここで多くの人に出会った。みんな親切で良くしてくれた。僕は日本人が大好きだ。いつか又来たい。その時も僕が知っている日本のままであって欲しい」

「ありがとう、サミー。私たちはいつでもあなた方を歓迎するわ」

「ありがとう。日本人は素晴らしい。戦争はするな。散り果てるのは桜だけで十分だ」

だからぁ、もう、それ違うのよ。何と言ったら良いのだろう。又、頭の中で単語がぐるぐる巡り始めた。だが、あきらめる訳にはいかない。誤解を解くのは今しかない。私は、私は、私は。

「私はこう思うの。美しい桜がすぐに散ってしまうのは、散って終わるのが美徳ではない。次の変化に備えるため、次にやって来る厳しい季節を生き抜くために花を落とし、力を蓄える。その潔さが美徳なの」と伝えた。

「Wonderful! The time with the change. 素晴らしい! 時は変化とともにある。だから、備えは生きる知恵だ」と彼は言った。

あれから20年過ぎた。ネットワークの進歩。パソコンの普及によりペリアサミーさんは韓国、中国と海外赴任する度にメールをくれた。しかし、いつの間にか連絡は途切れた。

あの当時、彼らと住んでいたマンションは都市開発で取り壊された。

そして、日本は自然災害が年々増加する国となり、さらにコロナ感染との闘いで新たな日常も始まった。

「時は変化とともにある」ペリアサミーさんの知っている日本は、時とともに変わったかもしれない。それでも、この春も桜は咲いた。花吹雪をくぐりながら私は改めて思う。平和な日常は尊い。

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